カモノハシは夜明けに歩き出す

カモノハシ。

好きな動物は何?というありふれた質問に、少し首をかしげて彼はそう答えた。犬とかペンギンとかキリンとか、そういう答えを期待していた僕はちょっと面食らって、そうかあ、のんびりしてそうでいいよね、ととりあえず返事を返す。見たことないけどね。デリケートだからオーストラリアから外には運べないらしいんだ、と彼は言う。ちょっとの刺激ですぐ弱ってしまう、クチバシをもった得体のしれない生物のことを僕は想像する。寂しがりやなのにマイペースで、ちょっとマヌケな動物がオーストラリアのどこかの沼ででうろうろしている光景を思う。

 

人間だって。彼は続ける。人間だって、家族や友達をつくって家を建てて、赤ん坊も年寄りも誰かの世話になって、でもプライドもあってときに我儘も言って、相当にマヌケな生き物に見えるんだろうね、彼らからしたら。なんてやっかいなやつらなんだ、って。

 

僕はうなずく。誰かがそばにいないとたまらなく不安になる、不完全な僕らのことを思う。深夜のファミレスで、ドリンクバーをおかわりし続けながらカモノハシの話をする僕らのことを、考える。カモノハシは夜明けに歩き出すんだ、と小さく呟く。なにそれ?と彼はいう。いや、そうだったらいいなと思って。え、歩くのかな、あれ。彼は大きな欠伸をする。朝日の中でゆったり立ち上がるカモノハシを思い浮かるけれど、その後すぐ忘れてしまう。何でもない日々。

 

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